40代サラリーマンの日記

わたくし、40代のサラリーマンの日常を書いています。

60年以上続いた音楽バブルの終焉 /なぜ音楽は売れなくなったのか

CDが売れないと2000年頃から言われ出し、今では全盛期からは考えられないほど市場が縮小しています。日本国内では98年に音楽ソフトの売上は6000億円でしたが、2014年には3000億円を切っています。12インチCDに限って言えば、2017年の生産枚数は100万枚を超える程度しかありません。驚くべき衰退です。

これを嘆く声が多いのですが、60年間も音楽産業はバブル景気に湧いていただけで、そのバブルが弾けただけのようにも思えます。
 

1950年代のアメリカ

まだ全米ヒットという言葉がなく、売れる曲は地方によって異なりました。ミュージシャンで生計を立てるのは困難で、幸運にも毎晩クラブで演奏することができるミュージシャンなどを除けば、音楽だけで食べていくのは難しかったのです。
※アメリカ南部ではエルビスのレコードが焼かれるなどの反対運動が起こりました。
 
エルビス・プレスリーの登場で全米ヒットという言葉が生まれ、西海岸でも東海岸でも同時に売れるようになりました。音楽だけで食べていくだけでなく、贅沢な暮らしができるミュージシャンが生まれたのです。
 

1960年代のイギリス

ビートルズが世界的なヒットとなり、国家間をまたいで人気を得るミュージシャンが登場しました。この熱狂の中、ドラムのリンゴ・スターは将来の夢を尋ねられて「音楽で金を貯めて床屋をやること」と語っています。音楽で一生食べて行くことは、まだまだ現実的ではなかったのです。
※アメリカ市場を席巻したイギリスのビートルズ
 
ビートルズに続いてストーンズザ・フーなどが続きますが、彼らはアメリカ市場での成功によって多くの収入を得られるようになりました。そして60年代には、それまでのシングルレコードではなく、単価の高いアルバムレコードをいかにして売るかに力が入れられます。こうしてコンセプトアルバムなどが考案されていきます。
※破滅的なバンドですが、質の高いコンセプトアルバムを出しているザ・フー
 

1970年代の音楽市場

ビートルズによって定着したワールドツアーに、続々と多くのミュージシャンが参入してきました。ミュージシャンはブランド化に力を入れ、ビートルズのリンゴマークやストーンズのベロ出しマークはルイ・ヴィトンモノグラム同様に厳しく管理されます。
エアロスミスのコンサートはスタジアムで行われました。
一方でキッスは自らの似顔絵をさまざまな商品に貼って売り出し、一大産業にしていきます。コンサートのステージは演劇の舞台のように凝ったものになり、単に音楽を聴く場ではなくアミューズメント化が進みます。
※キッスのコンサートは演劇のようでもありました。
 
この頃にはトップのミュージシャンの収入は天文学的なものになり、音楽だけで一般人には考えられないほど贅沢な暮らしができるようになりました。
 

1980年代のアメリカ

MTVの登場により、音楽はテレビという新しい市場を開拓しました。演奏も歌もルックスも今ひとつでも、プロモーションビデオが良ければ、それなりに売れるという時代が始まりました。
※MTVは音楽の売れ方を変えました。
 
マイケル・ジャクソンの「スリラー」は、周到なマーケティングの成果もあって3000万枚以上も売れます。1曲当てれば、一生働かなくても良いお金を手にすることが可能になりました。
マイケル・ジャクソンの「スリラー」
 
さらに80年代はライブエイドで衛星同時中継も可能になり、あらゆる国にコンサートをリアルタイムで届けることができるようになりました。音楽市場は広がり続け、巨額のお金が右から左に簡単に動く世界になりました。
 

なぜ売れなくなったのか

インターネットによる違法コピーの大量配布が最初に挙げられます。ナップスター全盛期にメタリカなどは深刻な売上ダメージを受けたと主張しています。しかし同じくナップスター全盛期に1億回以上ダウンロードされたと言われるブルース・スプリングスティーンは新譜も大ヒットしています。ここに所有したい音楽と消費する音楽の違いを指摘する声もあります。
ナップスターを訴えたメタリカのメンバー
 
また80年代まで(日本では90年代まで)のCDのセールスは、レコードからの買い替え需要に支えられていたという意見もあります。1980年に解散したレッド・ツェッペリンのアルバムは、90年代に入ってからも年間30万枚以上売れていました。これは90年代になってからようやくツェッペリンの音源はCD化されたので、レコードからCDに買い換える人たちが売上を押し上げていたというのです。この買い替え需要は、ある程度の期間で終焉を迎えます。
※解散後も驚異的なセールスを誇ったレッド・ツェッペリン
そしてネットにより大量の情報が溢れるようになると、大手メディアが大量宣伝してもその情報量は限定的なものになってしまいました。iTunesストアに始まり現在のネットラジオは宣伝されないマイナーな音楽も掘り起こしました。イズラエル・カマカヴィオレのようなハワイでしか知られなかったミュージシャンが急に脚光を浴び、レコード会社に「コンサートはいつどこで行われるのか?」と質問が殺到して対応に苦慮したと言います。イズはとっくに亡くなっていたからです。
※ハワイの巨漢シンガー、イズラエル
 

冷静になって考えてみよう

音楽を演奏する、または歌を一曲歌うだけで、一生食うに困らないお金を手にするというのは異常だと思いませんか?もちろん優れたミュージシャンが高い演奏料を得るのは当然です。しかしその額が膨れ上がりすぎたのも明らかだと思うのです。わずか1曲で手にする金額が、サラリーマンの生涯年収の数倍、時には数十倍になるというのは夢のような話です。これは60年代に始まった音楽バブルであり、それが60年も続いたために当然のことのように思い込んでいたのではないでしょうか。
音楽バブルが長く続きすぎたために、音楽業界はバブルに合わせたビジネスモデルを構築し、安泰だと思っていたのでバブルが弾けて右往左往しているように思います。アメリカの音楽業界は、一地方でしかヒットしなかった音楽をラジオの発達によって州全体、全米へとヒットするエリアを広げ、ビートルズ以降は先進国の国家間で市場を拡大しました。80年代には新興国に、90年代は東欧にも市場を広げ、ついに広げる先がなくなってしまったのです。
 

まとめ

このまま音楽業界は衰退するのでしょうか?それは誰にもわかりません。依然として音楽は魅力的であり、人を動かす力を持っています。ですから私は衰退することによって起こるメリットも感じています。この数十年の間、音楽を有名になるための手段や金銭を得るための手段として使う人が多くいましたが、これからは音楽でしか生きられない、音楽を止めたら生きられないという切実な人だけが残るように思います。儲からないなら音楽を辞めるというのではなく、貧乏になろうが音楽への渇望を止められない人だけが音楽を表現し、それ以外はネットのボカロブームのような素人の遊びとしての音楽が広まるように思います。
 
現在の音楽業界に生きている人にとっては死活問題であり、そんな気楽なことは言っていられないでしょうが、1人の音楽ファンとしては、そのような未来を感じてしまうのです。